よみがえれ!熊本の絹。最先端システムによるシルク生産を追う

県内外から数十万人を集めるイベント「山鹿灯籠まつり」で知られる熊本県山鹿市では、2017年4月に世界初・最大規模の周年無菌養蚕工場が誕生して話題となっています。

かつてはシルクロードの終点地であり、明治の頃には世界最大のシルク生産地であった我が国「日本」。

緑深い山鹿のブドウで作られる「菊鹿ワイン」と、手漉きの和紙と糊だけで創られる「山鹿灯籠」、そして美人の湯で知られる「湯の町」 “やまが” で動き出した「SILK on VALLEY YAMAGA-新シルク蚕業構想-」。このプロジェクトは、もしかしたら日本に今一度、シルク産業をよみがえらせる起爆剤となるかもしれません。

この記事では、山鹿市で稼働し始めた世界初の周年無菌養蚕工場の全貌、そして日本、熊本のシルクの歴史についてご紹介させていただきます。

「SILK on VALLEY YAMAGA」山鹿に最先端養蚕工場誕生

全国有数の農業県・熊本の中でも指折りの農業地帯である山鹿市ですが、日本の地方都市に共通する「人口減少・少子高齢化」という課題を抱えています。この課題を解消し、新たなシルク産業の創出を通じて、地域ににぎわいを取り戻すため、山鹿市が取り組む政策の一つが「SILK on VALLEY YAMAGA」プロジェクトです。

このプロジェクトは、(株)あつまるホールディングス(本社:熊本市)が従来の養蚕業の弱点を克服した「新養蚕システム」に着目したことから始まります。そこに、かつて養蚕の町であった山鹿市が同社を誘致し、さらに大学や研究機関、総合商社などがタッグを組み、新たなシステムを活用した養蚕業を実現する一大プロジェクトが立ち上がりました。

標高600メートルの山上に広がる「天空桑園」

カイコを育てるには、まず餌となる桑を栽培する必要があります。そこで、農業生産法人㈱あつまる山鹿シルク(本社:山鹿市)では、市内の標高600mの山上にあった荒れ果てた耕作放棄地を再開拓し、なんと総面積25haの桑畑、通称「天空桑園」が整備されました。

この天空桑園では、化学肥料や農薬など一切使用せず、また周囲に農薬を使用する田畑もないため、完全オーガニックによる「やまがシルク」の生産が可能となりました。また、カイコが育つ工場の内部は、半導体素子や医薬品生産工場と同等の清浄度レベル「クリーンレベル10000」に保たれており、無菌状態で育てられます。

このクリーンでオーガニックなカイコからは、高機能繊維やシルク化粧品、さらに医療品や医薬品の分野など、様々な製品の素材として利用できることが期待されています。世界のファッション業界や美容・化粧品業界など、世界市場の一角に食い込む日が来るのも遠い未来ではないかもしれません。

無菌環境の空調で完全管理された最先端の飼育設備

上簇室(蚕が蛹になる前に糸をはき、繭をつくるための部屋)

山鹿はシルクの町だった。熊本の養蚕の歴史

紀元前から始まるカイコ・シルクの歴史は長く、日本でも弥生時代の遺跡から絹織物が出土しており、魏志倭人伝よると、西暦238年には邪馬台国の女王卑弥呼から絹織物が献上された記述が残っています。日本のシルク産業が世界の舞台に登場したのは、明治時代に入ってからのことでした。

もともと日本各地の農家では、田畑での農作業の合間にカイコを飼い、繭を生産する養蚕が行われてきました。明治に入ると、養蚕によって得られる絹糸が主要な外貨獲得産業となっていきます。

国を挙げて大いに養蚕が奨励され、各地に大規模な製糸工場が建てられました。最盛期には国の輸出額の半分以上を占め、急速な日本の近代化を支えたのはシルクであるといって過言ではありません。

熊本も例外ではなく、特に山鹿市は、古くは江戸中期の肥後細川藩時代、熊本に養蚕を広めた「島いけい」氏と、明治期には、「養蚕富国論」を提唱し、熊本県の近代蚕糸業の開祖となる「長野濬平」氏を生んだ土地柄でもあります。彼らの活躍によって全国でもトップクラスとなる品質の繭が生産されており、山鹿と養蚕は古くから深い縁で結ばれていました。

しかしながら、1929 年当時には 221 万戸あった日本の養蚕農家数は、2015 年にはわずか 368戸まで減少し、山鹿でもわずか2戸が残されるばかりとなっていました。この風前の灯火だった日本の養蚕、熊本・山鹿の養蚕をもう一度よみがえらせて、新たな未来を開拓しようという願いが、この最先端養蚕工場に込められているのです。

世界初・最大にして最新式の周年無菌養蚕工場

なぜ今シルクなのか?改めて見直されるその価値

カイコの繭から生産されたシルクは、すべてが絹織物になるわけではありません。シルクには、人体にとって有効な特性があり、その一つが生体適合性の高さです。

無菌状態の繭から生産されたシルクは、人体の中に入っても拒絶反応や炎症を起こしにくく、外科手術の縫合糸に使われてきました。現在では再生医療材料に応用する研究が進められています。

「やまがシルク」のように、オーガニックな飼料と無菌状態で育てたカイコの繭から生産されるシルクは、先端医薬品の原料や高付加価値の繊維素材など、様々な分野で応用されることが期待されています。

知っておきたい「日本の絹」マークについて

「日本の絹」マークをご存知でしょうか?日の丸に白生地がはためく意匠が印象的な「日本の絹」マークは、日本で織られた絹織物と染織されたきものや帯、織物産地組合や企業が一貫して生産した洋服・布団などに添付されるマークです。

また、日本国内で生産された繭から繰糸した生糸で織られた絹織物には、「純国産」マークとして、「日本の絹」マークの下に「純国産」と書かれています。そこには、必ず製品の生産履歴が表示されていて、「蚕品種」「繭生産地」の記載があります。製糸・製織・染色・加工を行った企業名も明記されています。

国産シルク製品の証であるこの「日本の絹マーク」「純国産絹マーク」を見かけたら、ぜひ手に取りその手触りやデザインのすばらしさをチェックしてみてください。きっと日本の生産者の熱い思いが伝わってくることでしょう。

最先端技術でよみがえる熊本・山鹿市の「新シルク蚕業構想」に要注目!

“自然由来”の素材として、さまざまな可能性が期待されている「シルク」。いにしえから育まれてきた人とカイコとシルクの歴史が、21世紀の最先端テクノロジーによって、熊本・山鹿市から新たな1ページを開こうとしています。

ファッション産業のみならず、医療やハイテク産業にまで大きく寄与することが期待できるシルクの可能性と、果敢に挑戦する「やまがシルク」の生産者たちから今後も目が離せません。

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